一般的な訓練のルールについて以上簡単に説明した後で、すべての飼い主にぜひ自分の犬に仕込んでもらいたい、三つの特別な芸にもどることにしよう。
そのうちでもめざましいものは、私の考えでは、「伏せ」という言葉に対して暗黙のうちに従わせることである。
それはすべての犬を、より好ましい、有用な伴侶にするからである。
犬は命令に従って待機し、再び呼ばれるまで動かずにいることを学ばねばならないし、これを果たす能力は多くの利益をもたらす。
飼い主は犬を、店や家の外などどんなところにでも放っておくことができるし、したがって犬はほとんどいつでも飼い主についていくことができ、本当に忠実な犬にとってはこのうえもなく不幸な、家においてきぼりにされる必要か殆どなくなるのである。
しかしながら、「伏せ」の主要な効果は教育的なものである。
すなわち服従することについての本質的な進歩をもたらすからだ。
犬にとって、飼い主についていきたいという強い衝動を征服し、気に食わぬ場所にひとりでとどまっている、というのはかなりの苦行であり、この試練は不愉快な義務に等しい。
従って、立て、ついてこいという命令ぱすばらしい解放となり、雄犬は喜んでこれに従う。
かくして「呼ばれたときに行く」ことがまさにお義理の仕事でなく喜びとなるのである。
手に負えない犬を呼ばれたときにくるように仕込みたいなら、「伏せ」の学習のさなかという好機を逃してはならず、さもなくばその試みは往々にして失敗に終わる。
私の知っている最良の犬の調教者の一人は、猟犬の訓練にあたって、来いという命令よりも「すわれ」のほうにいっそう手間をかけている。
雄犬は追跡している最中の犬を止まらせる方法を考えだしたが獲物を追いかける欲望が強くて情熱的なハンターであり、飼い主の制止の口笛にも耳をかさない犬たちですら、いつもはこれに従った。
雄犬はこれを、ふつうの「おすわり」の訓練を拡大させることでやってのけた。
犬はどんな活動をしていても、よしんば全力で追跡している最中にも、命令に応じてやめ、そしてふたたび呼ばれるまで「伏せ」でその揚に「待機」することを教えこまれたものである。
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犬が獲物をめがけて突進している場合、呼び戻そうとはせず、ただ適当な大きさの声で「すわれ」とどなるだげであった。
すると突然の制止でまき上がったほこりの雲と、そしてそれが消えた後には、従順に腹ばいになった犬の姿がみえるのであった。
「伏せ」の訓練は非常にやさしいので、こうしたことに特別の才能をもたない人にでもうまくやることができる。
この訓練は、その品種の犬の成長か速いか遅いかによって、七ヵ月から十一ヵ月の間にはじめるとよい。
はじめるのが早すぎるのは好ましくない。
移り気でふざけ好きの子犬にあまりにも多くのことを要求する結果、犬は命令にたいして知らぬ顔をきめこんで寝そべってしまうからである。
一方、もっと年をとって落ち着いた犬では、命令にたいして抵抗することがずっと少ない。
訓練は軟らかく乾いた地面で行なうのがよい。
たとえば、犬が腹ばいになりたがらないような場所ではなく、「伏せ」とかあるいは調教者が使うことにきめた適当なことばに従って、そこに首と愕をがっちり支えて地面にしっかりと体を這わせられるような野原である。
はじめて命令を下すときには、ある程度力づくでやらせる必要があるかもしれない。
命令をすばやく理解する犬もいれば、遅い犬もいる。
そしてそのほかに、木馬のように体をこわばらせていて、力づくで、始めに前肢をそれから後肢を折り曲げられてはじめて状況を理解する犬もいる。
この初歩的な段階は、外からみている観察者にはいささか滑稽なものにうつるかもしれない、しかし驚くべきことだが、何度かくり返しているうち犬が状況を理解して、命令が与えられると自発的に伏せるようになるまでには、ほんの少しの訓練しか必要としない。
そもそもの最初から、犬にはいわれぬ先に立ち上がらないよう教え込むべきである。
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犬に「伏せ」と「持て」の二つを別々に教えるのは間違っている。
なによりもまずなすべきは、犬のすぐそばに寄り、その鼻づらの前で手のひらを軽く動かして、犬に立ち上がるすきをあたえぬようにする。
それから、急に「こい」といって犬の散歩先を走り、その後でいまの試練にたいする褒美として愛撫してやったり、遊んでやったりするのである。
犬が疲れた様子をみせたり、訓練をくり返させまいとして飼い主を避けるようなきざしを示したら、訓練を中止して翌日に延期すべきである。
「持て」時間の延長は、きわめて徐々にゆっくりと行なわなげればならない。
また調教者は、厳しさと親しさのあいだになんら中途半端な小細工を弄すべきではない。
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